日本でも「ビジネス用英会話」「旅行のためのフランス語」「すぐに使えるドイツ語」等、 様々な言語・用途の本(以下『参考書』とする。いい表現が思いつかなかった)が売られている。 それは海外でも同じである。 どこの国の人だって「あの国の言葉を話してみたい」という気持ちはあるはずだ。 (日本人の英語コンプレックスは特に強い。英語力はアジア最低と言われている) そんな時、この手の参考書は手軽だ。費用もかからないし、好きな時に勉強できる。 そんな外国語会話の参考書を、ネイティブの人が見たらどう映るのだろう(例えば英会話本をイギリス人が読む)。 本来の用途とは異なるが、とても興味深いことだ。 ―なるほど、我が母国語はこのように教えられているのか。 ―自分は当然のように喋っているが、意外と難しい言語なんだな。 普段は気づかなかった、母国語の意外な側面が分かるかもしれない。 というわけで、タイで日本語会話の参考書を買ってきたぞ。
この本は上級者向けとなっている。 「通じさせる」ことよりも「感心される」ことに重点を置く、一歩先を進んだ本なのだ。 前書きは全てタイ語なので解読できない(例文は日本語が併記されているのでなんとかなる)が、 とても興味深い例文が載っていた。 気合で解読して要約すると、 「ちょっと塩を取ってくれない?」の「を」外して「ちょっと塩取ってくれない?」にすると感じ悪くねぇ? 「ちょっと頼んでおいてくれません?」を「ちょっと頼んどいてくれません?」にすると軽くヤバくない? という説明がされている(はずだ)。 な、なんてハイレベルな内容なんだ! この本は、敬語や礼儀といった日本語の深くて難解な部分に立ち向かおうとしているのだ。 そもそもマトモな敬語を話せる日本人が少なくなってきている昨今、 完璧な敬語を操るタイ人に遭遇したら、感心する前に逆に引いてしまう可能性がある。
180バーツというのは少し高い。 屋台でカレーを6杯食べることが出来る。 しかし、CDが付いているのでお得感一杯。 この本は、特定のシチュエーションでの日本語の受け答えを紹介している。 主人公はタイの日系商社に勤めるタイ人OLプロイ(25歳・♀)で、 勤め先や取引先等での日本人と様々な会話をする、という設定になっている。 他の登場人物はプロイの上司渡辺部長(50歳・♂)、渡辺の妻えみこ(49歳・♀)、プロイの取引先の社員かおり(25歳・♀)等だ。 非常に細かい設定だが、別にどうでもいいことだ。 それでは内容を紹介していこう。
第1課からハードルが無茶苦茶高い。 挨拶代わりに粗品を渡し、「お構いなく」と返事をするプロイは、本当にただのタイ人OLなのだろうか。 しかし、本書は日本人の謙遜さと礼儀正しさを伝えようとしているのがよく分かる。 後に続くページでは、 「いらっしゃる」の活用法、「お上がりください」の「上がる」の別の意味、「気を使う(厳密には「遣う」が正しい)」の意味等の説明がされている。 また、口語(話し言葉)の注釈まで付いている徹底ぶり(例:じゃましちゃだめ→じゃましてはだめ)。 しかも課の最後には、例文で出てきた単語を用いてCDを使ったリスニング問題まで付いている。 最初HowTo本だと舐めていたが、ホンマモンの参考書のようだ。 突っ込むだけというのも味気ないので、本書と国語辞典を元に例文を解説していこう。 国語辞典がないと母国語を説明できないとは複雑な気分だ。 第1課の重要単語は以下の通り。因みにかなり端折っている。 いらっしゃい・お上がりください・おじゃまします・結構です 外国人に意味を聞かれたら、あなたはこれらの言葉を説明できますか? いらっしゃい 「来る」「行く」「居る」の尊敬語である「いらっしゃる」の命令形。「いらっしゃいませ」よりは軽い。 例文では人の来訪を歓迎する挨拶の言葉として用いられている。 お上がりください 「上がってください」よりも丁寧な表現。 「上がる」という言葉には様々な意味・用途がある。
おじゃまします 〔相手の「じゃま」をする意味から〕相手の家を訪問すること。訪問する際、また、訪問先から帰る際の挨拶の言葉としても使う。 「じゃま」とは、「さまたげること。さまたげになるさま。また、その物。」をいう。 例: お姉ちゃんが宿題やってるんだから、じゃましちゃだめ(じゃましてはだめ)! 木がじゃまになって見えない。 あなたなんかついてったら(ついていったら)じゃまよ。お兄さんはデートなんだから。 そこに置かないでください。じゃまになりますから。 結構です 例文の「結構です」は「満足できる状態であるさま。その状態で十分であるさま。」という意味である。 他にも以下のような意味がある。
なんか凄く勉強した気分になった。 こうして見ると、日本語というものは奥が深く、そして複雑な言語なのだということを実感する。 参考書のハードルも高いが、日本語のハードルも高いようだ。
例題の後は練習問題、コレ基本。 上の写真の問題をやってみよう。 本来ならCDを聴きながら解くリスニング問題なのだが、 みなさんは日本人ということで、CD無しのハンデ付きで解いてもらいたい。
日本人から見たら、何てこと無い難易度だが、外国人からすれば結構な問題だろう。 英語の問題でもこういう出題形式はよく見かける。基本を問う問題に適しているということだろう。 次にCDで該当箇所を聴いてみた。 流暢な日本語だ。恐らく日本人だろう。 棒読みなのも、聞き取りやすくするためだと思う。 日本人が聴くと、思わず笑ってしまうが、日本で売られている英語の参考書に付いているCDを聴くアメリカ人も同じ心境だろう。 例文では「どうぞおかけてください」となっているが、CDでは「どうぞおかけください」と話している。前者が誤りだ。 一通り聴いたが、全て日本語だった。やはり言葉の学習は耳を使うことからなんですね。 以上からも分かるように、この参考書はかなり本気だ。気合入りまくってる。 本気で「丁寧な日本語の使い方」を教えようとしている。 タイ人だけでなく、日本の若者にも読ませてやりたい。 あ、タイ語分かんないか。 気合入りまくりの本だけというのもつまらないので、 もう一冊日本語本を買った。 それが凄いことになっているのである。 その2へ |
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